そんな前夜。

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 レアリィへの想いを再確認したとはいえ、いきなり状況が変化する訳でもない。俺達は何事も無く普通にエレベーターに乗り、お互いの部屋へと戻った。
 まぁ、個室の中での二人っきり、というシチュエーションは堪えたけれど。改めて意識し出したら、なんかこう、『抱き締めても大丈夫なんじゃないだろうか』という奇妙な錯覚に襲われて大変だったのだ。
 そんなこんなで部屋に戻り、明日はどうしようかと考えていた矢先、携帯電話が震えだした。見れば、着信を示すバイブレーションとランプの色。
 瞬間、いつもなら感じない緊張に包まれた。
 柄じゃ無いな……。と思いつつ携帯電話に手を伸ばす。ついでに姿勢も正した。早鐘を打つ心臓と呼応するように高まる緊張。ゆっくりと折りたたみを開くと、そこにはレアリィの電話番号――では無く、いつもの友人の番号が映し出されていた。
 期待した自分に重く溜め息を吐きながら、通話ボタンを押す。
「切るぞ」
 何も聞かずに言う。期待を裏切られた事もあり、思った以上に暗い声が出ていた。
「よぉ、遅くに悪いなって待てぇ! 何があったのかは知らんが、ちょっと落ち着け!」
「うるせぇ! 期待させたテメェが悪いんだよ!」
 と、勢いに任せて文句を言い散らしたあと、大きな溜め息と共にベッドへと倒れ込み、
「で、何だよ」
「いや、帰りに呼び出されたのが気になってな。結局なんだったんだ? っていうか、今のもそうだが大丈夫か?」
「あー……今のはまぁ、八つ当たりだから関係ない」言って、コイツになら話しても大丈夫か、と判断し、「実はさ、この前の火事が起こる前、俺とレアリィは美術室で教師の手伝いをしてたんだよ。そのお蔭で、さっきまで事情聴取を受けてたんだ」
「じ、事情聴取?!」
 驚くのも無理は無いと思う。俺だって、知っている相手が事情聴取を受けたと知ったら驚いてしまう。でも、警察にはマンションに設置されてる監視カメラの話をした。だから、
「まぁ、大丈夫だとは思うけどさ。疑われるような事はしてないから」
「なら良いが……。でも、そうか、事情聴取か……もしかしたら、お前の部屋に警官が来るかもしれないぞ?」
「な、なんでだよ」
 予測すらしていなかった言葉に、思わず体を起こす。視線は自然と、素晴らしきネット世界の産物で満ちたパソコン本体――というか、そこにあるハードディスクドライブに向かっていた。
 そんな俺に、友人は言う。
「例え話だが、美術室には時限爆弾がセットされてたかもしれないだろ? もしそれを疑われた場合、『ネットを使って作り方を調べたかもしれない』っていう疑いが新たに掛かる可能性がある。そこから家宅捜索の流れになっても何の不思議はないぜ」
「って事は、俺達が疑われてる可能性はまだ残っている訳か……」
 思いっ切り意気消沈する。
 父親の単身赴任先に母親が付いて行ってしまった為、俺は現在一人暮らしだ。もし俺とレアリィ、そしてあの橋本とかいう教師が共犯だと考えられたら、誰にも咎められずに爆弾を作れるであろうこの部屋への家宅捜索は確実の物になるかもしれない。そうなれば、両親にも迷惑が掛かるのは確実。同様に、レアリィの部屋にも家宅捜索は入るだろう。
 最悪の未来予想……ネガティブの方向へ走り出した思考に苛まれ、更に気分は落ち込んでいく。
 と、際限なく気分が沈みつつある俺に、受話器の向こうからすまなそうな声が聞こえてきた。
「……すまん、驚かせて悪いが、そんな事は無いと思うから安心しろ。爆弾なんて作れば現場に証拠が残る。警察がそれを見逃す筈が無いさ」
「なら始めから可能性があるとかいうなよ……。でも、マジで何も無いと良いんだがな……」
 深く溜め息を吐きながら、俺は呟いた。

  
□  

 同時刻。
 焼け焦げ、すすで黒くなった美術室に人影があった。
 黒一色の服装に身を包んだその人影は、夜の闇に紛れながら部屋の角へと向かう。そして懐から百円玉ほどの大きさを持った鉱石を取り出すと、それを床へと置いていく。
 物音一つ立てずにその作業は進み、四方全てに鉱石を置き終わると、今度は部屋の中心に立った。
 周囲へと視線を巡らせ、自分以外に人が居ない事を確認すると、杖と思われるものを握り締めた手を静かに上げた。
 暗い闇の中、その人影が口を開く。
「水よ。此処にあるモノ、全てを包め。此処に至るモノ、全てを包め。水は全てを否定する。この空間を否定する」
 紡がれる言葉は若い女の物。その言葉と共に、四方に置かれた鉱石がほんのりと輝きだす。
「覆い尽くせ。隠し尽くせ。――舞い上がれ」
 その言葉が告げられた瞬間、部屋に変化が訪れた。部屋の中心に立つ人影から、霧のようなものが生まれ出したのだ。それは濃さを増しながら四方へと広がっていく。
 だが不思議な事に、生み出された霧は鉱石が作る四角形……つまりこの美術室の外へと漏れ出さない。当然、壁に大きく開いた穴からも霧が漏れるような事はなかった。
 そうして、視界を完全に塞ぐほどの濃霧が部屋を満たした。それを確認すると、部屋の中心に居る人影は小さく呟く。
「そして、散れ」
 瞬間、部屋一杯に満ちていた濃霧が霧散した。まるで初めから霧など発生していなかったかのように。
 それを見届けながら、ゆっくりと腕を下ろし、
「これで偽装工作は完成、と。もうあの子が疑われる事はないわね」
 出口へと歩き出しながら、人影はそう呟いた。




 学校に不審な影が現れてから、約三十分後。
 夕食を作り始めていたレアリィの耳に、チャイムの音が響いた。
「あ、はーい」
 思わず答えてしまいながら、彼女は包丁を握っていた手を止めると、少々急いで玄関へと向かう。
「どちら様ですか?」
「あ、私よ私」
「先生」少々の驚きと共に言い、しかしすぐにサンダルへと足を掛けると、「待っててください、今開けますから」
 チェーンを外し、鍵を開ける。ドアを押し開くと、そこには全身黒で統一した服を着た先生が立っていた。手にはコンビニエンスストアの物らしいビニール袋を持っている。
「こんばんわ。突然来ちゃったけど、大丈夫?」
「大丈夫ですよ。今晩御飯を作っていたところなんですけど……そうだ、先生もご一緒しますか?」
 提案に、先生は嬉しそうな笑顔と共に、
「お願いするわ」
「解りました。それじゃ、上がってください」
「お邪魔します」
 そう言ってブーツを脱ぎ出した先生を玄関に残し、レアリィはキッチンへと戻っていく。
 暫くしてやってきた先生は、リビングの中心に置かれているコタツへと入ると、
「はー、やっぱりコタツは良いわね……」
 そう呟きながら、持ってきた袋をコタツの上へ置き、
「レアリィ、何か手伝う事はある?」
「あとは先生の分を焼くだけですから大丈夫ですよ」
「因みにメニューは?」
「今夜は鮭です。今朝食べようと思っていたんですが、寝過ごしてしまいましたから……」
「あー……その、昨日は本当にごめんね。まさかあの二人が道に迷うとは思わなかったのよ」
 それは昨日の深夜まで遡る。
 部屋を出た時、少女達は先生の魔力を手繰って帰ってくれば良いと考えていたらしい。しかし、先生の隠れ家であるアパートには結界が張られていた為、先生やレアリィの魔力を手繰るのは不可能だった。
 少女がそれに気付いたのは完全に道に迷ってからで、不味い、と思った時にはもう遅かった。
 見ず知らずの土地、しかも違う世界となれば、様々な勝手が違ってくる。信号の意味や道路の渡り方などは理解していたらしいが、どの方角にマンションがあるのかまでは解らなかった。そんなこんなで、少女達は完璧に迷子になっていたのだった。
 そして、帰りが遅い事をレアリィ達が心配し始め、捜し出そうと動き出した時にも、二人は迷いながら歩き続けていた。そのお陰で、魔力を感知出来ても相手を見付けられないという行き違いが発生。
 ようやっと合流を果たした時には、外はもううっすらと明るくなっていた。その後レアリィは部屋に戻り、眠りに就いたのだけれど……結果は今朝の通り、大遅刻をしてしまったのだった。
 とはいえ、レアリィにも似たような経験があったから、少女達を強く責める事は出来なかった。彼女はその事を思い出しながら、
「でも、仕方がないですよ。私だって、始めてこの世界に来た時は迷いましたから」
「あー、そういえばレアリィも迷った事があったわね」
 そう言って先生は懐かしげに笑い、
「でも、昨日は悪い事をしたから……」言いながら、コタツの上にある袋から白い箱を取り出し、「今日は、レアリィの為にケーキを買って来たの」
「本当ですか? 有り難う御座いますっ」
 ケーキは久しぶりなので(そして大好物なので)、思わず声が弾んでしまう。と、そんなレアリィに微笑みながら先生が腰を上げた。
「食器を運ぶわ。お盆、貸してくれる?」

 そうして、数十分後。
 出来上がった夕飯を前に、先生と対面するように腰掛けた。準備は完了。あとは『頂きます』を言って食べ始めるのみとなったところで、レアリィは「ケーキへの感謝は取り敢えず置いときまして……」と前置きしてから、
「今日、学校で事情聴取を受けました」
 何気なく言ったつもりの一言は、けれど暗く重い響きになっていた。
 けれど、それも仕方ないと言えた。相手が柔和な感じの婦警だったから良かったものの、レアリィにとって『誰かに問い詰められる』というのは強いトラウマになっているのだ。もし相手がこちらを犯人だと決め付けるような男性だったなら、レアリィはその場でパニックを起こしてしまったかもしれない。
 対する先生は、驚きに目を見開き、そしてその表情を辛そうに歪ませると、深く頭を下げた。
「ごめんなさい……」
「疑いを掛けられてしまった以上、仕方ありません。頑張って耐えます。ですが、もうあんな事にならないようにしてくださいね? 相手に魔法を使わせる前に説得するとか、方法はあった筈なんですから。……というか、そういう方法を教えてくれた先生が、自分でそれを実行しないでどうするんですか。先生も無事で、怪我人も出なかったから良かったものの、下手をしたら大変な事になっていたんですよ?」
「はい……。でも、まさかあんなにも強力な魔法が使えるとは――って、これも言い訳ね……」
 まるで師匠と弟子という立場が逆転してしまったかのように、沈痛な様子で先生が言葉を紡ぐ。そしておもむろに立ち上がると、レアリィの隣に移動した。その動きの理由が解らず、レアリィはどうしたのかと先生へと視線を向け――不意に抱き締められた。
 暖かな体温に包まれる。それが誤魔化しなどではなく、心からの心配なのだと解ったから、レアリィはそのまま身を任せた。
 そんな彼女を安心させるように、先生の声が優しく響く。
「本当にごめんね……。でも、もう大丈夫。美術室に細工をしてきたから」
「細工、ですか?」
「そう。実際には、偽装工作って言った方が適当かしら。美術室全体に、改めて魅了の魔法を掛けてきたの」
 言って、先生がこちらを安堵させるように微笑み、
「設定した内容は、『作品棚の近くにあったストーブが不完全燃焼を起こして発火し、それが内部の灯油に引火。炎が一気に大きくなり、それが作品棚に燃え広がって、燃え易い物をどんどんと燃やしながら巨大化し、そのまま部屋中を熱していった。そして、窓ガラスが耐え切れずに割れ、バックドラフトを起こし――爆発。老朽化の進んでいた壁は衝撃に耐え切れず壊れてしまった』と、こんな感じね」
 そう自身有りげに言う先生を見上げていると、段々と落ち着きが戻ってきた。というか、少し呆れてくる。
 それでも、レアリィはその腕の中に収まりながら、
「事実とは全く違いますが、何となくリアリティが高いですね」
「この前テレビで火事の特集をしてたから」
「だからですか……。でも、どうやってそこまでの魔法を?」
「いつものようにコレを使ったの。まぁ、それでも魔力の消費は激しかったけど、効果は完璧に現れると思うわ」
 そう言って先生が懐から取り出したのは、百円玉ほどの鉱石。
「ああ、これですか」
 それはレアリィも使う事がある、結界展開用のマジックアイテムだった。これを使う事で簡易的な結界を生み出し、外部と内部を区切る事が出来るのだ。
「発生させた魔法を出来る限り増幅出来るよう、事前に細工をしておいて良かったわ。……まぁ、たまに失敗する事もあるけど」
「……本当に大丈夫なんですか?」
 心配げに……いや、少々怪訝な色を持ちつつ問い掛けると、先生は少し胸を張り、
「大丈夫、この私を信じて頂戴。それに、もし結界の力が想像より弱くても問題は無いわ。近い内に、この一件の事なんてどうでも良くなるから」
「えっと、自信があるのか無いのか良く解らないんですけど、取り敢えず『どうでも良くなる』っていうのはどういう事ですか?」
「一度『向こう側』に帰ろうと思っているの。彼女達の事を踏まえても、ちゃんと仕切直さないとって思うから」
 突然切り出された帰還の話題に、レアリィは困惑しながら、
「……仕切り直し、ですか」
「今回はもっと長い期間『こちら側』に居る予定だったけど、状況が状況だもの。許して頂戴。それに、あの剣で本当に門を開けるのかを確認したいっていうのもあるの。レアリィには悪いけど、これだけは確かめないといけないから」
 先生が言う事は、レアリィにも痛いほど解っていた。自分が何年も掛かって辿り着いた境地を、あの剣はいとも簡単に行ってしまうというのだから。
 だが、すんなりとそれを受け入れる事も出来ず、無意識に俯いてしまう。
「解ってます……」
 そんなレアリィを慰めるように、先生は優しく、
「私はね、様々な魔法技術を学び、様々な科学技術を見てきた。でもやっぱり、魔法で出来る事の方が――いえ、魔法こそが、不可能を可能に出来る力だと思ってるの。だから貴女は諦めないで。我が愛する一番弟子」
 俯いた頭に先生の手が乗せられ、優しく撫でられる。それに励まされるのを感じながら、レアリィは小さく頷いた。
 それと同時に、レアリィは帰り際の約束を思い出していた。
 元の世界へと帰る時は、先生と同じように、レアリィに関する記憶も消していく事になる。つまり、この短期間で仲良くなる事が出来た彼とも、もう離れ離れになってしまうという事だ。
 少し我が儘を言って、明日は朝から遊びに行こうか……。
 そう思った瞬間、彼の顔と共に、レアリィは重要な事を思い出した。
「あ」
 意識せず出た声に、先生が疑問符を浮かべ、
「どうかした?」
「重要な事を伝え忘れていました。実は、先生の事を忘れていなかった人が居たんです」
 レアリィの頭に手を乗せたまま、先生が固まった。

  
□  

 いざ自分の住んでいる街を案内するとなると、思ったよりお勧めする所が無い。ぶっちゃけ田舎だしなぁ……などと思いながら明日の予定を考えていると、充電中だった携帯電話が震えだした。
 充電器プラグを挿したまま手に取り、開く。
 見れば、ディスプレイにはレアリィの番号が表示されていた。正直今夜は連絡が無いだろうと思い込んでいた為に、通話ボタンを押そうとしていた指が止まってしまった。一気に緊張が高まり、心拍数が上がるのを感じながら、俺は厳かに通話ボタンを押した。
 そして小さな機械の向こうから聞こえてくるのは、待ち望んでいた少女の声。
「もしもし、レアリィです。夜分遅くにすみません」
「や、全然大丈夫。まだ寝るには早いしさ」
「早寝早起きは大切ですよ?」そう、楽しげに言ってから、「それでですね、明日の予定なんですが、朝から出られる事になりました」
「マジで!」
「はい。それで、時間とかどうしようかと思いまして」
 嬉しそうなレアリィの声を聞きながら、俺は思わずガッツポーズを決めていた。凄まじく嬉しい。そのまま小踊りしたくなる気持ちを必死に抑え、俺は考える。まだこの街に慣れていないだろうレアリィと待ち合わせをするならば、変に場所を指定しない方が良いだろう。
「そうだな……九時ぐらいに玄関ロビーに集合でどう?」
「大丈夫です」
「じゃ、九時に。遅刻するなよー?」
「わ、解ってますっ」
 ちょっと必死に答えるレアリィに笑う。もし彼女が遅れようと、俺は何時間でも待つけどさ。
 そうして電話をしながら、不意にある事を思い付いた。
 レアリィとの会話が続く携帯を耳と肩で挟みながらどうにか上着を羽織り、外に出た。そしてエレベーターホールまで歩いて行くと、上へとボタンを押す。電波が悪くなるのを心配したけれど、なんとか大丈夫そうだ。
 そして軽い音と共にやって来たエレベーターに乗り、最上階へ。そこから階段を上り、扉を開けば、
「スゲー……」
 一面に広がる、輝く夜景に出迎えられた。少し雲があるのが残念だけれど、それ以外には何の文句も無い絶景だった。
「どうかしましたか?」
 と、レアリィの疑問の声が聞こえて来た。俺は思わず出てしまった感嘆の声を恥ずかしく思いながら、
「や、なんでもないよ」
 そして思う。
 明日はどうにかして、彼女にこの景色を見せてあげたいと。




 次の日。
 楽しそうに歩くレアリィと青年の姿を、遥か後方から眺める女性の姿があった。レアリィの隣にいる青年――美術委員でもある彼の事は、女性自身良く知っていた。
 この世界で偽りの役職に就いたのが一年以上前。魔法という技術を使いこなす女性にとって、役職を偽るのは簡単な事だった。同時に、魅了の魔法を掛けるのも(魔力の消費は激しいものの)簡単だった。
 数人の生徒と教師に自分が教師だと思い込ませ、その情報が他にも伝染するようにしたのだ。つまり、Aという生徒がその魔法に掛かっていれば、そのAのクラスの全員が魔法に掛かるという事。
 女性が学校に入り始めて数日の間に、偽装工作は完了していた。
 そんな中で、美術教師という役職を選んだのはただの気まぐれだった。たまには絵を描いてみよう……そんな程度の理由。
 それでも、美術委員である彼は女性の事を純粋に慕ってくれて、だから当初考えていた以上に教師という役職にも力が入った。そうして時間が過ぎていく内に彼と会話をする事も多くなり、気付けば生徒の中で一番仲の良い相手になっていた。
 そんな彼が、女性の事を覚えていたというのだ。
 逢っている回数が多かった分、女性の受けた衝撃は大きい。
 彼がこの世界の純粋な住人である事は疑い無い。何故なら、彼からは魔力を全く感じる事が出来ないからだ。
 だからこそ、女性には不思議でならなかった。
 何故。何故。何故。
 混乱する思考の中、しかしその状況を正当化出来る理由が一つだけあった。
「もし……」
 もし、彼が――





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