歴史として、残るもの。

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 食事を終え、夜に稽古を行う事を約束して椛と別れると、私は一度自宅に戻って着替えを済ませ、再び職場に戻りました。
 そして私はこちらへの当て付けかのように着替えようとしない同僚を軽く睨みつつ、自警団を率いる大天狗に魔理沙の事を報告。「侵入者の撃退、ご苦労じゃった。これからも頼むぞ、射命丸」と顎鬚を撫で付けながら言ってのける大天狗に蹴りを入れたくなる気持ちを抑えて自分の机に戻ると、殆ど白紙に戻ってしまった原稿を再び書いていきます。
 しかしおかしなもので、一度書いた筈の文章なのに、再び同じ文章を書こうと思うと全く手が動かなくなってしまうのです。記憶にある文章をなぞってみても何かがおかしく、文章の繋がりもちぐはぐになっていくばかり。結局頭から新しい文章を考えていく事になり……しかし出来上がっていくものは一度目のそれよりも微妙な出来になってしまうのです。
 それでもどうにか一枚目に近付けようと原稿を書き直し続け――気付けば近くに建っている工場が停止する時間となり、それと同時に仲間達も仕事を切り上げて帰って行きます。みんな帰りに一杯引っ掛けていくのでしょう。……羨ましくなんてありませんよ、ええ。
 それでも黙々と原稿を書き続け……気付けば職場に残っているのは私と同僚の二人きりとなっていました。とはいえ彼は私と一緒に残っていてはくれないのか、机の上をざっと片付けると、背もたれに体重を預けて伸びをしてから、
「っと。んじゃシャメ、俺はお先に失礼するぜ。残業頑張ってな」
 その言葉と共に帰って行ってしまいました。
 そうして閑散とした職場に一人になると、どうしても淋しくなってしまうものです。とはいえ、明日までにこの新聞を発行したいので頑張らないといけません。私は意識を切り替え、黙々と作業を進め……不意に奥にある扉が開き、大天狗とその部下が現れました。
 どうやら私の報告を受けてから警備関係の練り直しを行っていたようで、彼等はその話をしながら職場を去っていきます。当然部署の違う私に視線を向ける事などありません。ないんです。だからこっち見ない!
 全くもう。
「……仕事仕事」
 今度こそ誰も居なくなった職場で、私は机に向かいます。
 工場の音が消えた今、遠く大瀑布の音が聞こえる以外、外からの物音はありません。時折少し冷たい風が吹き、数年前から仕舞われていない風鈴が小さく音色をあげるぐらいの静かな夜です。
 私は集中しながら原稿を書き進め……無意識にお茶を手に取ろうと手を伸ばし、そういえば昼前に零してから淹れ直していなかったんでした、という事に気付いて顔を上げ――
「ほれ、お望みのものじゃ」
 声と共に、机にお茶が置かれました。私は湯気を上げるそれを一度見てから、目の前に音も無く現れた大天狗を見上げ、
「……帰られたんじゃなかったんですか?」
「仕事熱心な天狗の姿が見えたからのぅ。お茶でも出してやろうと思ったんじゃよ」
 顎鬚を撫で付けながら言う彼に、私はお茶を一口貰い、
「前にも言ったけど、その喋り方似合ってないわ」
 おっと、周囲に誰も居ないのが解っているからか、思わず本音が出てしまいました。対する大天狗は同僚の椅子に勝手に腰掛け、昔の口調に戻りながら、
「うるせぇな射命丸。世の中には年相応ってのがあるんだよ。お前もいい加減考えろ」
「私はまだまだ若いから。アンタみたいな爺と一緒にされたくないわ」
「ハ、確かに外見だけは昔と変わんねぇな」
 そう言って笑う彼に怒りが湧きつつも我慢です。こんなのでも一応上役ですからね。
 とはいえ、この男との付き合いも長いのです。私がただの鴉だった頃からなので、気付けばもう千年以上も続く腐れ縁で、互いに知らない事はありません。そんな相手とこうして一緒に山で働いている以上、その縁はこれからも続いていくのでしょう。……まぁ、付き合いが長い分文句なども沢山あるのですが、今はぐっと我慢です。一応仕事中ですからね。
「……で、何か用?」
「ここ最近、お前は天狗らしからぬ新聞ばかり出しているだろ。その理由を聞かせて貰おうかと思ってな」
 本来天狗の新聞は嘘や大げさな記事ばかりで、その存在も仲間内で楽しむ意味合いが強いものでした。ですが、紙の価格が下がった事でその状況が変化し、山以外にも新聞が配られるようになり……今の私は裏の取れた情報のみを記事にしています。彼にはそれが気になったのでしょう。
 そう思う私を前に、彼は私にと淹れた筈のお茶を勝手に飲みながら、
「それに、最近は人間にも肩入れしてやがる。お前らしくもない」
「……何故そう思うの?」
「ここ数年、お前の新聞に出てくる人間が固定されてきたからだ」そう言って彼は視線だけを私に向け、「なぁ射命丸。昔のお前なら面白そうな現場だけを素っ破抜き、あとは放置が基本だった。というか、今も報道の天狗はそれが基本だ。だから奴等は嫌われる。だが、今のお前はその逆をやってやがる。特定個人を調べ上げ、取材し、裏を取り、そして初めて新聞にしてる訳だからな。面白みは少ないが、しかし時間の掛かる事ばかりだ」
 面白みは少ない、という単語に反応しそうになりながらも、一応黙って話を聞きます。すると、彼は私にお茶を手渡しながら、
「やはり、今の巫女は面白いのか」
 予想していなかった問い掛けに、お茶を飲もうとしていた手が止まってしまいました。それでも私は少々熱いそれを一口飲んでから、
「面白いわね。歴代のどの巫女よりも自由奔放で、それでいて孤独で。きっと彼女は歴史に残るわ。博麗の巫女としてではなく、博麗・霊夢という個人として」
「お前がそう言うんじゃ、その通りになるんだろう。実際、人間との関係が形骸化した今の幻想郷に、決闘のルールを定めたぐらいだからな。その切っ掛けが吸血鬼の起こした異変だとしても、その功績は大きい。……で、どうなんだ、やってる本人からしたら」
 と、その言葉と共に無造作に右手が差し出されました。お茶を取る訳ではないのだろうそれに一瞬だけ考え、私は文花帖に挟んである符を数枚彼に手渡しつつ、
「結構楽しいわ。まぁ、技に美しさも必要だから、スペルを一つ考えるのにも時間が掛かるけど、それもまた一興って奴ね」
「つまりあれか、化粧や洒落なんかと似たようなもんか」
「それとはちが……うーん」
 自分に見合う色や形を考え、それを表現する。それは確かに化粧やお洒落と似ている部分があるかもしれず、否定しきれません。
「ともあれ、神様だって始めた決闘だもの。これからも暫くは続いていくと思うわ」
 何気なくそう告げると、彼は私へと符を返しながら、
「それは巫女が――博麗・霊夢が死んでもか?」
「それは……」
「記者としてのお前はどう思う」
 問い掛けに、私は暫し考えます。『記者』として問われた以上、適当は言えませんからね。
「そうですねぇ……。幻想郷の規律である霊夢、それに魔理沙達がスペルカードルールに乗っ取って妖怪と決闘を行っている昨今、何か異変が起きる度にそれは広まりを見せ、今や天界、地底などといった本来地上と交流の無かった場所にまで拡がっています。ですが、大半の妖怪は飽き易く、そして人間は百年も生きません。霊夢が亡くなったあと、新たな代の巫女がスペルカードルールを受け継がなかった場合、それは確実に消滅するでしょう」
 そしてまた、以前のように妖怪達が気力を失っていくに違いありません。
 ですが、
「私、射命丸・文とすれば……残り続けて欲しい、と思うわ。人間相手だから手加減はしているけど、思う存分彼女達と戦えて、好き勝手に異変を起こす事が出来るんだから。それに、ここまで人間と妖怪の関係が近く、それでいて昔通りなのは初めての筈。ここ数百年、人間達は腑抜けていたから」
「確かにそうだな」
 古き時代、私達妖怪と人間は時に敵対し、時に協力し合いながら暮らしていました。当時の人間は妖怪に脅えながらもそれを打ち倒せるだけの力と精神を持っており、私達はそれに畏敬を持って接していたのです。
 しかし、彼等が夜の闇を恐れなくなるにつれ、その力は一気に弱まっていきました。そして幻想郷が隔離された時、かつて英雄と呼ばれた者達の血を引いていた里の人間達は、当時の人間達とは比べ物にならないほどに弱い存在になってしまっていたのです。それに張り合いを無くした妖怪達は気力を失い、この妖怪の山から鬼が消え去りました。まぁ、何もしなくても妖怪達に食料が供給されるようになったのですから、それも仕方なかったのかもしれません。
 そうして時は流れ――吸血鬼異変が起こります。天魔様を頂点とした縦社会が出来上がっていたこの山はその影響をあまり受けませんでしたが、暢気に過ごし続けていた妖怪にとってあの異変は衝撃的だったに違いありません。そうでなければ、あんなにも短期間で吸血鬼の傘下には収まらなかったでしょうから。
 そんな異変が収束した後にスペルカードルールが制定され……あっという間に数年の歳月が過ぎ去りました。その間、毎日のように幻想郷を取材していた私が思うのは、
「今の人間達には活気があるわね」
「それは妖怪にも、だろう。……それもまた、スペルカードルールの功績に違いない」
 例えばそう、同僚が咲夜に興味を持ったのもそれが切っ掛けなのでしょう。もしスペルカードルールが制定されていなければ、咲夜がああして表立って戦う姿を写真に収める事は無く――彼女が紅霧異変以降目立つ事もなければ、私も同僚も彼女に対して興味を抱く事が無いままとなった筈です。
 それは昼間戦った魔理沙もそうです。彼女のあの強さも今のように目立つ事無く消えていったでしょうし、最悪彼女があそこまでの技量を手に入れる事もなかったかもしれません。スポーツのように気軽に決闘を行う事が出来るようになったからこそ、少女である彼女が妖怪と戦う事が出来ているのですから。
 そう、少女であるという事。非戦闘員だった彼女達が妖怪と戦えるようになった事が、スペルカードルールの発展に大きく貢献したのでしょう。
 本来、妖怪退治とは男が行うものなのです。むしろ、そういう『決まりごと』になっていると言った方が良いでしょうか。力のある無しでは無く、それが男の仕事であり、彼等の帰りを待ちながら家を護るのが女の役割となっているのです。
 外の世界の人間に聞かせたら鼻で笑われそうな話ですが、しかしながらそれが幻想郷の常識です。唯一の例外は幻想郷の規律である霊夢だけで……しかし博麗の巫女も、本来ならば歴代の神主の補佐的な役割しか持っていませんでした。現在の博麗神社には神主も神様も不在なので、本当に霊夢の存在は例外だといえるでしょう。
 だからこそスペルカードルールの功績は大きいと、私は改めて思うのです。
 もし咲夜や魔理沙と殺し合いをしたとしたら、私は確実に彼女達を殺せる自信があります。しかし、決して無傷では済まないだろうという確信もあるのです。
 仲間の天狗達の中には、スペルカードルールをただのごっこ遊びだと言って鼻で笑う者が居ます。彼等は得てして私達と同年代の男性である場合が多いのですが……過去に英雄や勇者と呼ばれた人間の力を目の当たりにしているからこそ、魔理沙達の煌びやかな弾幕に脅威を感じられないのでしょう。
 けれど、本来決闘とは命を賭けて行う戦いです。下手をすればこのごっこ遊びでも死ぬ可能性があるという事を、彼等は理解しておらず――魔理沙達が、才能や曰く付きの武器で妖怪を圧倒してきた当時の英雄達に迫る力を付けてきているという事にも、やはり気付いていないに違いありません。
 例えば、風を読み相手の動きを全て把握出来ても、時を止められてしまえば間合いを図る事すら出来なくなります。
 或いは、風を生み出し相手を切り刻もうとしても、それ以上の威力を持つ魔砲を放たれれば攻撃に徹する事が出来なくなります。
 それを身を持って理解しているからこそ、私は彼女達を殺せても、決して自身も無傷でいられるとは思えないのです。
 しかし――彼女達がどれだけ強くなろうと、妖怪退治は男の仕事なのです。
 例え幻想郷の未来がどう移り変わろうと、魔理沙達と殺し合う機会は一生訪れません。故に、私は今の幻想郷が楽しくて仕方ないのです。
「だから私は、新聞を出しているのかもしれないわ」
 事実を公表するという理由以外に、幻想郷の少女達の――弾幕ごっこを楽しむ彼女達の様子を伝える事で、この素晴らしい決闘方法を幻想郷に広め、より刺激的な毎日が訪れるように無意識に願っていたのかもしれません。そしてそれは嘘を記事にしていては伝わらない事でもあります。その気持ちが、私の記事の方向性を変化させて行ったのでしょう。
 そう思いながらお茶を飲み干す私に、対する彼は笑みを持ち、
「お前が何を考えて新聞の方向性を変えたのか、ようやく理解出来たよ」
「なら良かったわ。……って、今更だけど、アンタは私の新聞も読んでるの?」
「当たり前だろう。部署が違うとはいえ、俺も新聞大会の選考委員だからな」
「仕事熱心ねぇ」
「何、楽しんでおるから問題はないんじゃよ。ほっほっほ」
「……」
 顎鬚を撫で付けつつ、確かに外見には合っているのだろう口調で告げる彼を無言で睨み返していると、彼が私の手にある湯飲みを覗き込み、
「……さて、もう一杯茶を飲むか? 話ついでに原稿の完成まで付き合ってやるからよ」
「じゃあ、お願いするわ――って、顔が近い」
「しかし、お前は変わんねぇな。本当にあの頃のままだ」
 そう言って無造作に頬に触れてくる彼の顔は老人のそれで、しかし決して格好悪いという訳では無く――そしてその瞳は、彼の言う『あの頃』のままで。
「……馬鹿」
 こういうのを、良い空気と言うのでしょうね。
 ……ですが、少々気になる事が一つあるので、過去への懐古はまた別の機会にしましょう。そう思う私の真正面の彼も『それ』に気付いているのか、扇に手を伸ばした私からそっと離れると、
「こそこそ聞き耳を立てるたぁ――」
「――関心しないわね!」
 言葉と共に風を生み出し、職場の出入り口である引き戸を一気に開きます。するとそこには驚愕に目を見開く同僚と、その隣で同じように驚く椛の姿がありました。彼等は突然の状況に動揺を浮かべながら、
「ヤベ、見付かった!」「だ、だから止めときましょうって言ったのに!」「文句はあとで聞く! それよりも逃げるぞ椛! シャメの奴はこういう時容赦ぎゃー!!」
「逃がす訳無いでしょう」
 扇を更に振るい、的確に風を生み出しながら同僚を拘束し、私は大またで彼等の前へと歩いて行くと、
「……全く、本当に懲りないわね。しかも椛まで巻き込むなんて……人形と一緒に川に流すわよ?」
 床に転がる同僚に言い放つと、彼は顔に焦りを浮かべつつ、
「待て待て待て、まずは俺の話を聞いてくれよ。仕事帰りに忘れ物に気付いて取りに戻ってきてみたら、部下と一緒に帰って行った大天狗があろう事か茶を淹れ始め、同僚しか居ない筈の職場に戻って行ったんだぜ? しかも同僚と親身に話を始めたとなっちゃあ当然聞き耳立てるだろ? 様子を見るだろ? な?」
「ごめんね椛、待たせちゃって」
「完全無視ー?!」
 無視です。私は脅えた表情を浮かべている椛へと視線を向けると、その頭を扇の柄で軽くぺしん、と叩き、
「でも、これからはこんな事しないように」
「は、はい!」
 素直な良い子ですね。撫でてあげま――
「こ、こらシャメ、汚いぞ! いくら後輩が可愛いからってな、何の説明も無しに丸めゴフゥ!」
「おっと、すまんなぁ。暗かったせいか何か踏んでしもうた。年を取ると視力が落ちて困るのぅ」
「だ、大天狗貴様ー!」
 思い切り下駄で腹を踏まれた同僚がそう叫び上げた瞬間、呵呵と笑っていた大天狗が一瞬で表情を消し、
「……おいおい、部署が違うとはいえ上役を呼び捨てたぁ、鴉天狗も偉くなったもんだな?」
「ヒィィィィィ!」
 あーあ、怒らせちゃった。これは明日の一面が塗り変わりそうですねぇ。そう思いながら引きずられて行く同僚を眺めていると、
「……あ、あの、文さん。同僚さんだけが悪い訳では無いので、その、」
「ああ、椛は巻き込まれただけでしょうから気にしなくて良いわ」
「で、でも、」
「大丈夫よ。閻魔様の手は煩わせないから」
 と、冗談めかしていった一言に、しかし椛が真っ青になってしまいました。そんな彼女に苦笑していると、不意に大天狗が振り返り、
「射命丸」
「なに?」
「この現状が続いて欲しいと願うなら、お前がそれを歴史に残せば良い。幻想郷は書物や新聞が――記録が歴史になる場所だからな」
「確かに、新聞は歴史の証明書でもありますからね……。まぁ、頑張りますよ。では、私は仕事に戻ります」
「すまんな射命丸。原稿の完成まで付き合ってやれなくなってしもうたが、頑張ってくれ。それと椛、そう気にせずとも大丈夫じゃよ。此奴には少し灸を吸えてやるだけじゃからな」
 顎鬚を撫で付けながらそう言って(まぁ目は笑って無いんですが)、大天狗は同僚を引きずって去っていき……その姿を見送ってから職場に戻ると、おずおずといった様子で椛が私を見上げ、
「……文さんは、大天狗様とお知り合いだったのですね」
「あら、気になるの?」
「い、いえ、そういう訳では!」
 慌てて言う椛に苦笑し、しかし私は何も教えぬままに残業の続きを始めます。
 世の中には伝えられるべき歴史もあれば、当人達の間だけで完結する、語られぬ歴史も存在するのですから。



 そうしてどうにか新聞を完成させ、あとは朝一で刷ればすぐにでも配る事の出来る状況にまで持っていったあと、私は椛を引き連れて自宅へと戻りました。
 時間的にもう遅く、今から稽古を始めては明日の仕事に支障が出てしまいます。なので今日は一緒に夕飯を食べ、稽古は明日の夜へと回す事にしました。
 そうして食事の準備を進めつつ、私はふと思い付いた事を椛に問い掛けます。
「椛は、今の巫女の名前を知ってます?」
 不意の問い掛けに、彼女は食器を運んでいた手を止めながら、
「えっと、霊夢、でしたっけ。思っていた以上に強くてびっくりしました」
「なら、今日私が戦った魔法使いの名前は?」
「えーっと……霧雨・魔理沙、だったと思います」
 正解。とそう告げながら、私は味噌汁の味を確認しつつ、
「彼女達の事、例えば百年後に思い出せそう?」
「……どうでしょう」私の隣に戻って来た椛は真剣な表情で悩み出し、「多分、名前や容姿は覚えていられないと思います。ですが、あの綺麗な弾幕の事は、きっと忘れていない気がします」
 そう、それもまたスペルカードルールの功績なのです。
 今までも妖弾を放つ妖怪はいましたが、それに美しさを求める事はありませんでした。故に誰の記憶にも残らず……しかし霊夢達の弾幕やスペルのように、美しさと激しさを持った弾幕ならば、それは記憶に、そして歴史に残りやすくなるでしょう。だから、
「いつか機会があったら、霊夢や魔理沙、それに咲夜達の本気のスペルを見てみると良いわ。多分椛が想像しているものよりもずっと綺麗で――そして、凄く強いから」
 霊夢達との関係が、そしてスペルカードルールがいつまで続くかは誰にも解りません。しかし妖怪である私がそれを楽しいと感じ、そして残して行きたいと思っているのです。これが一時の流行ではなく、将来へと続く歴史になっていくように、私はこれからも記事を書き、新聞を発行していきましょう。


 天狗として、記者として、この幻想郷の未来の為に。










end

 

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