開けたら価値が下がる箱。

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0

「ねぇ鈴仙、ちょっと良い?」
「何、てゐ」
「開けたら価値が下がる箱とかあったら、鈴仙は信じる?」
「開けたら価値が下がる箱? どうだろう……それがどんな箱かにもよると思うけど」
「いやね、実はここにあるのよ」
 そう言って因幡・てゐが取り出したのは、何の変哲も無い小さな箱だった。てゐはその箱を鈴仙・優曇華院・イナバに手渡すと、
「ほら、この前屋敷の隣にある蔵の大掃除をしたでしょ? あの時に見付けて、こっそり持ち帰ってたのよね」
「てゐ……。そういうのは何があるか解らないから、すぐに師匠に渡すように言ってあったでしょ?」
 少々呆れながら言う鈴仙に、てゐは楽しそうに笑い、
「いやー、だって開けたら価値が下がっちゃうような箱よ? これは何か商売の臭いが――」
「馬鹿言わないの」
「あいたッ!」
 てゐの頭を軽く叩くと、鈴仙は受け取った箱をまじまじと観察してみた。
 箱の大きさは手の平よりも少し大きい程度で、正方形。漆塗りが施されているらしく、その表面には黒い艶があり、けれど蓋が開かぬように紙で封がなされていた。そしてその紙には何か文字が書かれており……
「『開けたら価値が下がる箱』。……ねぇてゐ、こう、もう少し捻りは無かったの?」
「ちょ、違ッ!! それ書いたの私じゃないから!」
「誰も字の事は聞いていないけど」
「……ッ」
 鈴仙のツッコミにてゐが一瞬言葉につまり、しかし彼女は動揺を見せる事無く、
「……ともかく、信じる? 信じない?」
「そうねぇ……」
 聞いてくるてゐに苦笑し、箱を耳元で軽く振ってみる。何も入っていないのか、それともぎっしりと何かが詰まっているのか、箱の中から音は聞こえてこなかった。
 だが、何か物が入っているとするなら、この箱は軽すぎる。恐らく中身は空なのだろう。
 鈴仙は箱を両手で包むように持つと、
「んー、まぁ信じてみようかしら。何が入っているのか解らない以上、この箱に価値があるのは確かかもしれないもの」
「そう? なら、その箱は鈴仙にあげるわ」
「え、くれるの?」
 商売の臭いはどこにいったのだろうか。
 聞き返した鈴仙に、てゐは笑みを浮かべ、
「うん。そもそも、私が『開けたら価値が下がる箱』なんて物を売ろうとしても、最近じゃ疑うヤツの方が多いだろうからね。初めから鈴仙にあげようと思ってたのよ」
「そうだったの……。ごめんね、思わず叩いちゃったりして」
「良いの良いの。報告しないでガメた私が悪いんだし。……それじゃ、私は部屋に戻るから。その箱、どうするのかは鈴仙の自由だよ」
 そう言うと、さっと踵を返しててゐが駆けていく。
「あ、てゐ……。行っちゃったか……」
 止める間も無く、てゐの姿は薄暗い廊下の先へと消えていた。
 箱を持った鈴仙一人が廊下に取り残され、一体どうしようかと思案する。 
「信じるとは言ったものの……」
 この箱が出てきたという蔵は、鈴仙がこの永遠亭に逃れて来た時からあったかなり古いものだ。輝夜の力のお蔭で永遠亭共々風化せずに存在しているが……あまり頻繁に使われてもいない為、その手入れが疎かになっている場所でもあった。
 中には壊れた家具や日用品、更には実験ミスで生まれた産物や、数多くの月の道具までもが押し込まれている始末。つまり、この箱が本当に『開けたら価値が下がる箱』である可能性はゼロでは無いのだ。
 この紙にした所で、消えかけていた文字をてゐが書き足しただけの可能性もある。 
「……取り敢えず、師匠に見せてみよう」
 小さく呟き、鈴仙は長い廊下を歩き始めた。

……

 長い廊下と沢山の部屋を持つ永遠亭といえど、毎日そこで暮らしていれば、どこにどの部屋があるかはおのずと解ってくる。
 暫く歩き、鈴仙は通い慣れた永琳の実験室の前にまでやって来ると、
「師匠、鈴仙です。宜しいですか?」
「ええ、入って構わないわよ」
「失礼します」
 そう一言断ってから襖を開け、
「師匠にちょっと聞きたい事が……って、姫もいらしたんですか」
 何やら作業をしている八意・永琳の隣には、その作業を見守る蓬莱山・輝夜の姿もあった。
 鈴仙は後ろ手に襖を閉め、部屋の中へと入りながら、
「珍しいですね。姫が師匠の実験室に来るなんて」
「暇だったから永琳の実験を見学していたのよ」
「そうでしたか」
 頷き、鈴仙も身近な椅子へと腰掛けた。純日本家屋であるこの永遠亭の中で、唯一実験器具や薬品棚が並んでいるこの部屋は少し変だと思うが口にはしない。
 と、そんな鈴仙に作業途中の永琳が問い掛けてきた。
「私に聞きたい事というのは、何かしら?」
「あ、そうでしたそうでした。あのですね、さっきてゐからこんな物を貰ったんですが……」
 すっと手を差し出してきた永琳に箱を手渡し、鈴仙は説明を続ける。
「てゐが言うには、それは開けたら価値が下がる箱、なんだそうです。この前蔵を掃除した時、見つけてきたんだとか」
「そう……。確かに『開けたら価値が下がる箱』って書いてあるわね」
 左手でフラスコを振りながら、永琳が箱へと視線を落とす。そのまま軽く箱を振ったりした後、
「でも、こんな箱を蔵に仕舞った事があったかしら。中に物が入っているようには思えないし……」
 振っていたフラスコの中身を試験管の中へと移し入れながら、永琳が小さく首を捻る。
 すると、箱を興味深げに眺めていた輝夜が口を開いた。
「永琳、ちょっと貸してみて」
「解りました。どうぞ、姫」
 永琳から箱を受け取った輝夜は、それをじっくりと眺め……
「イナバ。これは蔵に入っていたのよね?」
「はい、そうみたいですが……」
「なら、これは私が貰っても良いかしら?」
 突然の輝夜の言葉に、鈴仙は一瞬返す言葉を失った。だが、姫がその箱を欲しがるという事は、
「……やっぱり、その箱には何か価値が?」
 鈴仙の問い掛けに、しかし輝夜は否定するように小さく首を振ると、
「多分、価値は無いわ。この箱自体は古い物だけど、漆の塗りやこの紙は比較的最近のものだもの」
「そうなんですか……。でも、どうしてそんな事が解るんです?」
「長い時を生きてきたからね。どのくらいの年月が経てば、どのくらい物が変化するかぐらい嫌でも解ってくるわ。……イナバもそうじゃない?」
 輝夜の問い掛けに、思わず鈴仙は視線を逸らした。鈴仙自身もう長い間この永遠亭で暮らしているが、そういった事を考えた事は無かったからだ。
「いやその……私は、あまり……。気にした事も無かったので……」
 そう答えた鈴仙に、輝夜は「そうだったの」と微笑み、
「だったら、今日から少し世界の見方を変えてみると良いわ。恐らくイナバが思っている以上に、世界は変化しているから」
「気を付けてみます。……でも、それならばどうしてその箱を?」
 まだその理由が解らない。そう思っての問いに、輝夜は楽しそうな微笑みを浮かべ、
「ちょっとした暇つぶしを思いついたのよ」
 
1

 部屋から出て行く鈴仙の姿を見送った後、永琳が口を開いた。
「……ウドンゲ、残念そうにしていましたね」
「そうね。少し悪い事をしてしまったわ。……永琳、多分似たような箱が蔵にまだあるだろうから、あとで見つけておいて頂戴。同じように細工をするのも忘れずにね」
「解りました。しかし姫、どうしてそのような事がお解かりに?」
 疑問符を持って聞いてくる永琳に輝夜は微笑み、
「元々この屋敷とあの蔵は、私達がここにやってくる以前からあったものだもの。蔵に入っていたという事は、前の持ち主が使っていた物という事になる。それなら、似たような物がまだあってもおかしくは無いでしょう? ……まぁ、無い可能性もあるけれど」
 恐らく無い可能性の方が高いが、その時はその時だ。可哀想だが、鈴仙には諦めてもらうしかない。
 そう思っての輝夜の言葉に永琳は頷き、 
「確かにそうですね。では、後で探しておきます」
「頼んだわ。それじゃ、私は妹紅の所に行って来るから」
 椅子から立ち上がりながら言い、恐らく同じように暇を持て余しているだろう藤原・妹紅の事を考え――刹那、永遠亭を揺らす爆音が外から響いてきた。
「?! 今の音は……?!」
 作業していた手を止め、辺りを窺うように視線を鋭くする永琳へと、しかし輝夜は廊下へと歩き出しながら、
「多分妹紅よ。ちょっと行って殺してくるわ」
 そう簡単に告げて、再度響いて来た爆音を聞きながら廊下へと出た。
 すると玄関方面からは何やら悲鳴が聞こえてきており、各所から因幡達が迎撃の為に立ち向かっているだろう事が予想出来た。
 少々急ぎながら廊下を飛び、見えて来た玄関を越える。すると、そこには予想通り炎を背負った一人の少女が居た。
 輝夜は外へと出ている因幡全員を屋敷の中へと下がらせると、箱を手に微笑みを浮かべ、
「ごきげんよう、妹紅」
「はいはいごきげんよう」
 律儀に言葉を返した藤原・妹紅へ対し、輝夜は箱の存在をチラつかせながら、
「妹紅から乗り込んで来るなんて珍しいわね」
「たまにはこういうのも良いと思ってね。……っていうか、その箱は何」
「ああ、これ?」
 妹紅があっさり喰い付いた事に内心笑みを浮かべつつ、輝夜は箱をその視線から隠すように胸に抱き、
「これはとてもとても大切な箱なのよ。だから肌身離さず持っているの。……でも、妹紅にだったらこれをあげても良いわ。まぁ、私に勝ったら、だけど」
「いらない」
「そんな事言わずに」
 そして輝夜は、箱へと愛しげな視線を落とし、
「ほらここに、藤原・不比――」
「ッ!!」
 その言葉を言い切る前に、妹紅が表情を変え、一気に輝夜へと向かい飛び掛ってきた。直線的なその動きを、輝夜は優雅に回避しながら、
「あら、いらないのかしら? なら、これは私が大切に大切に持っているわね」
「輝夜ぁぁぁ!!」
 輝夜の言葉に嘘があるとは知らず、激昂した妹紅が叫びを上げる。彼女にとって、やはり不比等の名前は特別なものがあるのだろう。 
 怒りに染まった瞳を向けてくる妹紅へと微笑みながら、輝夜は弾幕を展開させた。

2

 二時間半程に及ぶ戦闘の末、今回勝利を収めたのは妹紅の方だった。
 あの輝夜の口から父親の名前が出た事で、思っていた以上に無茶をしてしまったが、結果的に押し切る事が出来たようだ。
「さてと……」
 息を整え、千切り落とした輝夜の手から箱を無理矢理取り上げると、妹紅はそれに視線を落とした。
 しかし、そこに書かれていたのは、
「……『開けたら価値が下がる箱』? なんだ、これ」
 箱のどこを見ても、父親の名前など記されていない。
 呆然と呟いた妹紅に返って来たのは、いつの間にか復活した輝夜の声だった。
「残念、嘘よ」
「う、そ?」
「そう、嘘。それはただの箱よ」
「こん、の……!!」
 腹いせにその憎らしい頭を吹き飛ばそうと弾幕を飛ばすも、あっさりと回避されてしまった。思った以上に、妹紅自身も疲弊しているらしい。
 そしてそれを自覚した途端、一気に疲れが襲い掛かって来た。
「……帰る」
 そう小さく呟くと、妹紅は輝夜と目を合わせる事無く歩き出した。
 と、その背後から、
「その箱、大切にしてね」
 そんな声が聞こえた気がするが、多分気のせいだろう。そう思い込んで、妹紅は永遠亭を後にした。 

……

 疲れた体を引き摺って家へと辿り着くと、妹紅はそのまま畳の上に横になった。
 同時に手に持った箱を部屋の中へと放り投げようとし……寝転がった体勢で、再度箱を見てみる事にした。
「……」
 見た目はただの箱で、封をしてある紙には『開けたら価値が下がる箱』と書いてあるだけ。しかも先程の戦闘で汚れ、少し文字が見難くなってしまっていた。それを確認しつつ、今度は耳元で振ってみるが……音はしない。
「……ただの箱、か」
 だが、何と無く封を開ける気にはならなかった。例え嘘だとしても、何の理由も無しに、あの輝夜が藤原・不比等の名前を出すとは思わなかったからだ。
 勝手な思い込みかもしれないが、少し心に引っ掛かってしまっていた。
 それに輝夜の事だ。箱を開けたら中から変な物が飛び出してくる可能性もある。何しろ彼女の部下には永琳という天才が居るのだから。
「まぁ、それは考え過ぎか。でも、どうしようかな……」
 と、思い悩み出した所で、玄関から声が飛んできた。
「妹紅ー? 居るか?」
「あー、開いてるからー」
 寝転がったまま声を上げると、
「失礼するぞ」
 そう律儀に断ってから、一人の少女がやって来た。同時に妹紅はゆっくりと体を起こすと、
「どしたの、慧音」
「竹林から煙が上がっているのを見た者が居てな。妹紅かもしれないと思って、様子を見に来たんだ」
「そうだったんだ。ありがとね」
「いや、無事ならそれで良い。……だが、その様子を見ると、今日も一戦交えてきたようだな」
「え……?」
 言われるがまま、上白沢・慧音が見ている場所へと視線を落とした。
 慧音が見ていたのは妹紅の服で、見ればそこは泥や土で汚れ、更には弾幕で破けて一部ぼろぼろになっていた。箱と疲れに気を取られていたせいか、すっかり忘れてしまっていたらしい。
「あー……。ちょっと着替えてくるね」
「ああ、解った。その間、私はお茶の準備をしていよう」
 慧音は小さく苦笑すると、棚から急須と茶筒を取り出し始めた。
「ごめん、お願い」
 その姿に小さく誤り、着替えを済ます為に立ち上がる。
 取り敢えずリボンを解き、箪笥のある部屋まで向かうと、肩紐を外してズボンを脱いだ。そしてシャツのボタンを上から全て外すと、汚れが床に付かないようひっくり返しながら脱いでいく。
 そして箪笥から替えの服を出し、さっと着替えを済ますと、汚れた服を抱えて風呂場へと。そこにある洗濯物用の籠へと服を放り込み、
「……無駄に洗濯物を増やしちゃったな……」
 溜め息と共に呟く。
 毎度毎度の事とはいえ、もう少し考えて戦った方が良いのかもしれない。そんな事を考えながら、妹紅は部屋へと戻った。
 するとそこにはもうお茶の準備が出来ており、後は鉄瓶のお湯が沸くのを待つばかりとなっていた。
 それに微笑みつつ、妹紅は慧音の正面へと腰掛けながら、 
「火力、足そうか?」
「いや、大丈夫だ。……というか、火鉢の火力を上げるのはどうかと思うぞ?」
「早く沸騰した方が良い時もあるから」
「そういうものか……?」
 少し眉を寄せ、困ったように慧音が言う。そして彼女は床に転がしていた箱へと視線を向けると、
「まぁ良い。……時に妹紅。さっきから気になっていたんだが、その箱は何なんだ?」
「ああ、これ?」
 妹紅は苦笑しながらそれを手に取り、
「輝夜から奪ったものなんだけど……」
 もう一度箱を眺めつつ、考える。
 そう、例えばこれが本当に父親に関係するものだったとして……今更それを手に入れて、一体何があるというのだろうか。
 過ぎ去ってしまった過去には、どう足掻いたって戻る事は出来ないのに。
 そう、例えばこれが蓬莱の玉の枝だったして……輝夜からそれを奪い取った所で、一体何があるというのだろうか。
 唯一の本物を手に入れた所で、父親の辱は消えないというのに。
「……」
 つまり……箱が何であろうと、今の妹紅には不必要なものでしかない。
 それを考えたら、妹紅の中で何かが吹っ切れた。
「……慧音にあげるよ。っていうか、捨てといて」
「なんだ、捨てて良いものなのか?」
 確認するように聞く慧音の言葉に、妹紅はしっかりと頷き返すと、
「うん、捨てて大丈夫。例え中身がなんであれ、私には必要の無いものだから。
 ……あ、もしかしたら危険かもしれないから、開ける時には気を付けてね」

3

 妹紅から箱を受け取った慧音は、里への道を歩きながら考えていた。
 捨てて良いとは言われたものの、ただ捨てるのも勿体無い。箱に付いた汚れを落とせば、再利用する事も出来るし……もし何か危険があったとしても、満月の夜に開ければ大丈夫だろう
 ……だが、問題は、
「この『開けたら価値が下がる箱』、という一文か」
 恐らく悪戯か何かなのだろうが、いざ開けようと思うと躊躇ってしまうものだ。世の中にはこういったものでも簡単に開けてしまう者も居るのだろうが、しかし慧音は簡単に開けられないタイプだった。
 封となっている紙と睨めっこをしつつ歩を進め……ふと、体が誰かにぶつかってしまった。
「っと、すまない」
 慧音は咄嗟に視線を上げ、ぶつかった相手へと頭を下げ――
「別に良いわよ。……って、どうしたの?」
 目の前には、この封など簡単に開けてしまうだろうメイドが居た。
 そして慧音は、どうして十六夜・咲夜がこんな所に居るのだろうかと考えて……気付けば里の中心近くにまで戻って来ていた事に気が付いた。どうやら箱の事に意識を向け過ぎていたらしい。
 注意散漫だな、と思いながら慧音は咲夜へと視線を戻すと、
「いや、なんでもない。それより、お前こそどうしたんだ?」
「ちょっと買い物にね。朝食の時間までに用意は済ませないとだから」
「朝食……? ああ、お前の主は夜型だったな」
「そういう事。それじゃ、私は行くわね」
「……いや、ちょっと待ってくれ」
「ん?」
 歩き出そうとした咲夜を呼び止め、慧音は持っていた箱を咲夜へと見えるように持つと、
「さっき妹紅から捨てて良いと言われて貰ってきた箱なんだが……ただ捨てるのも勿体無いと思ってな。少し汚れてしまっているが、使う気は無いか?」
「……ちょっと貸してみて」
 言われるがままに箱を手渡し、慧音は説明を続ける。
「妹紅が言うには、輝夜から奪ってきたものらしい」
「輝夜からね……。んー……作りもしっかりしているし、悪いものじゃあ無いみたいね」
「どうする? 無理なら、これから里の者に聞いて回ろうと思うんだが」
 慧音の問いに、咲夜は暫し悩んでから、
「……頂こうかしら。このくらいの箱、丁度探していたところでもあったから。……でも」
「でも?」
「この『価値が下がる箱』っていうのは何なの?」
 怪訝そうに聞いてくる咲夜に慧音は苦笑し、
「初めからそれは付いていたらしい。妹紅にもその詳細は解らないそうだ。まぁ、出所が輝夜だから、危険がある可能性もあるんだが……」
「そうなの。……でも、中身が入っている音もしないし……これは多分、てゐの悪戯っぽいわね」
「あー……確かに、そうかもしれん。あの兎なら、こういった悪戯を思い付いてもおかしく無いからな」
 そう答えた途端、封を破る事に対する躊躇いが少し減って、慧音は自身の心情の変化に思わず苦笑した。
 そんな慧音に対し、咲夜は「そうでしょう?」と微笑んで、
「兎も角、これは貰っておくわね」
「ああ、有効利用してくれ。そうすれば、その箱も喜ぶだろうからな」





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