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ぷれぜんと。

――――――――――――――――――――――――――――

■はじまり。

 五月。
 久々にスーさんの毒を集めた私は、永琳へと毒を分けてあげる為、軽い足取りで永遠亭へと向かっていた。
 天気は快晴。あの花の異変の時には敵わないけれど、やっぱりスーさんが咲いているこの時期が一番気分がいい。
 だからだろうか? 何度通っても迷ってしまう竹林も今日はすんなりと進む事が出来た。その事にも嬉しくなりながら、私は辿り着いた永遠亭の玄関を開け、
「こんにちわー……って、あれ?」
 後ろ手に玄関の戸を閉めながら中に入ると、何か今日は屋敷の中が慌ただしかった。何なんだろう? と思いつつも、取り敢えず永琳の部屋へと足を運ぶ事にした。
「今日、必ずスーさんの毒を持って来てって言っていたのに……。この調子だと、永琳も忙しいのかな」
 そう何気なく呟きながら歩いていくと……その途中、正面からやって来たてゐに呼び止められた。
「あー、来た来た。メディ、ちょっとこっち来て」
「? 何?」
「良いから良いから」
 微笑むてゐに背中を押され、私は訳も解らないままある部屋へと通された。そこはあまり入った事が無い大広間であり、普段然程使われていないと聞いていた部屋でもあった。
 けれど今日はその話とは違っていたらしく、部屋には沢山の因幡達と豪勢な料理、それに色とりどりの綺麗な花が並んでいて、
「これは……一体?」
 何気なく呟いた問いは、部屋の中で準備を進めていた鈴仙から返って来た。
「やっと来たわね。てゐ、案内ありがと」
「別に良いわ。それじゃ、私はあれを用意しておくから」
「うん、お願いね。箱は私の部屋にあるから」
「りょーかい」
「……」
 目の前で繰り広げられる話に全く付いていけない。去っていくてゐを眺めつつ、ちょっと置いてけぼりな気分に陥った私に、鈴仙はごめん、と微笑んで、
「いらっしゃいメディスン」
「うん……。それで、この騒ぎは一体何なの?」
 疑問を持って問い掛ける私に、鈴仙は楽しげに部屋を見渡しながら、
「ほら、前に誕生日会をやるって話をしたでしょう?」
「たんじょうびかい?」
 言われてみれば、そんな話をしたような気がする。確かあれは、今から二・三ヶ月ぐらい前の事だ。

「そういえば、メディスンの誕生日はいつなの?」
「だんじょうび?」
 小さく揺れるうさみみの向こうから放たれた質問に、私は一瞬、それが何の事を聞いているのかが解らなかった。
 問いを放った鈴仙もすぐにそれに気付いたらしく、棚の奥にある瓶を三つほど手に取り、しゃがんでいた体を立ち上がらせると、
「よいしょっと……。そう、誕生日。メディスンがこの世に生まれた日の事よ」
 手に持った瓶をテーブルに置きながら、鈴仙が言う。けれど彼女は、手元の瓶の蓋を開けながら少し悩み、
「……でもメディスンの場合、誕生日が二回あるのよね……」
 蓋を開けながら告げられた言葉に、私は小さく首を傾げ、
「どうして? 私が生まれたのはスーさんの所だから、他には無いよ」
 そう答えた私の言葉に、何故か鈴仙は少し悲しげに頷いて、
「ん、そっか。……じゃあ、メディスンはいつあの鈴蘭畑で『生まれた』の?」
 鈴仙の問い掛けに、私は生まれた頃の記憶を辿った。けれど……
「うーん……解らないわ。気付いた時には、私はスーさんと一緒に居たから」
「となると……鈴蘭が咲いている時期なのは確かだろうから、四月後半から五月上旬ぐらいか……」
「でも、どうして突然そんな事を聞くの?」
 私の生まれた日が何かあるのだろうか。そう思っての問い掛けに鈴仙は微笑んで、
「ほら、もうメディスンもこの永遠亭の一員みたいなものだし、次の機会に誕生日会を開いてあげようと思って」
「たんじょうびかい?」
 鸚鵡(オウム)返しに聞き返す私に、鈴仙は頷くと、
「その人が生まれた事を記念するお祝い会のこと。まぁ、実際に主役となって行っているのは私達因幡だけで、もう自分の年齢すら解らない姫や師匠を主役にした誕生日会は開いてないんだけどね」
「そうなんだ。……不老不死も大変なのね」
 長い長い時を生き、そしてこの先も生きていく運命にあるからこそ、年齢というものにこだわる事も無くなってしまうのかもしれない。
 私に呟きに鈴仙は深く頷き、
「そうね……。でも、私達因幡が姫達と一緒に暮らしてきた年月は、確実に積み重なっているから。それを忘れない為にも、私達は誕生日会を開いているの。当然、姫達にも参加してもらってね」

 と、そういったやり取りが確かにあった。
 それを思い出せた事が顔に出てしまったのか、鈴仙は私へと微笑んで、
「思い出した?」
「うん、思い出した。じゃあ、今日は誰かの誕生日なのね」
「あ、それはちょっと違うかな。今日だけじゃなくて、今月生まれの因幡の誕生日会だから。でも……今日の主役はメディスン、貴女よ」
「……私?」
「そう、貴女」
 言って、鈴仙は微笑みを強めると、
「去年の春先にメディスンと出逢って、貴女がこうやって永遠亭に出入りするようになってもう一年。丁度生まれた日もこの前後みたいだし、今日の主役はメディスンにしようって、みんなで決めたのよ」
 その声が聞こえたのか、うんうんと頷く因幡達に笑みを返す鈴仙に対し、思っても見なかった状況に混乱して上手く言葉が返せない。けれど嬉しい気持ちはそれ以上に強くて、私は顔に浮かぶ感情を隠さずに、
「えっと、その……ありがとう」
 でもなんだか恥ずかしくて、最後の方が少し小さくなってしまった。
 鈴仙はそんな私の手を取ると、
「良いの良いの。さ、座って待っていて。師匠と姫が来たら、すぐに誕生日会を始めるから」
「う、うん」
 なんだかちょっと緊張してきて、歩く足取りがぎこちなくなる。もしこの体の中に心臓があったなら、今は早鐘を打っている所なのだろう。
 気を許した相手の前でも緊張するという事を学びつつ、私は鈴仙に指示された場所に腰を下ろした。
 そこは縦に長い大広間の一番端で、因幡のみんなを良く見渡せる位置だった。一段高くなっているから、余計なのかもしれない。
「……あれ? でも……」
 ふと、過去に永琳から教えてもらった事を思い出した。
 確か、部屋の一番奥というのは、何か特別な意味を持っていて――と、思考が答えに行き着いたと同時、部屋の襖を開けて永琳と輝夜がやって来た。
「ウドンゲ、姫をお連れしたわ」
「お連れされたわ。んー、今回も豪勢ね」
「師匠、姫。もう少しで準備が終わりますので、席に着いて待っていてください」
「解ったわ。では姫、こちらに」
 鈴仙の言葉に頷き、永琳が輝夜をエスコートする。先程思い出した通り、私が居る上座へと。
 上座というのは、目上の人が座る場所だ。今日の主役だと言われても、私が居て良い場所じゃない。
 一歩一歩を儚げに美しく進む輝夜の姿に一瞬見とれつつも、私は慌てて席を立とうとし、
「あー、メディスンはそこに座ってて良いのよ。なんたって姫からOKが出てるんだから」
 と、遠くから鈴仙の声が飛んできた。
「で、でも……」
「良いのよ。イナバが言った通り、私が許可を出したのだから」
 そう言いながら、すっと音を立てず、輝夜が綺麗な姿勢で私の隣に座した。
 定期的にこの永遠亭に遊びに来ているとはいえ、私は輝夜とはあまり話をした事が無かった。あの永琳が主従を誓っている相手だから、なんだか近付き難い感じがしたのだ。
 けれどそんな勝手な印象とは裏腹に、上手く言葉を返せない私に輝夜は優しく微笑むと、
「緊張しないで。今日は貴女が主役なのだから」
 そして彼女は、その白く細い手を私の髪へと伸ばした。
 そのまま、ゆっくりと髪を撫でられ……ふと、その感覚に覚えがある事に気が付いた。何だか懐かしいその感触に、一体いつそれを感じたのだろうかと記憶を手繰り寄せ……
「それじゃ、始めましょう!」
「ッ?!」
 元気に響いた鈴仙の声に思わず体が震え、同時に輝夜の手が髪から離れていった。
 それを残念に思いながらも、みんなの方へと視線を向けた輝夜に習うように私も正面を向……いたのは良いものの、予想以上に多いその視線に、顔を上げ続ける事は出来なかった。

■きっかけ。

 誕生日会は楽しい空気全開で進んでいく。
 私は人形だからご飯を食べる事は出来ないけれど、そんな事が気にならない程に楽しい気分でいっぱいだった。
 あの花の異変の時、もし外に出ようと思わなかったら、私はこんな風に笑う事も出来ずに過ごしていたんだろう。
「……」
 だからこそ、思う。
 あの時、閻魔様は私の心が小さいと言っていた。それは認めたくない事だったけれど、やっぱり本当だったみたいだ。こんな楽しい事を……道具である人形だってこんな風に笑える事を、あの頃の私は知らなかったのだから。そんな過去の私では、人形開放を叫んでも誰も賛同してくれなかったに違いない。
 だから……この先ももっともっと色んな事を学んで、一歩ずつ着実に、人形開放を目指していこう。
 と、そんな事を考えていたせいか、ついぼーっとしてしまっていたらしい。隣に座る輝夜が私へと視線を向けると、
「どうしたの? 何か考え事かしら」
「え? あ……うん、そんなところ」
 そう答えた私に、輝夜は柔らかく微笑んで、
「そうだったの。でも、まだまだ会は続くのだから、そんな風にぼーっとしてちゃダメよ?」
「そうそう、まだまだ宴は続くからね」
 輝夜の後に続いた声に視線を向けると、そこにはほんのりと顔が赤い鈴仙が居た。
 輝夜も私と同じように鈴仙へと視線を向けると、
「ねぇイナバ、いつの間に誕生日会から宴に変わったのかしら?」
「そこは気にしちゃダメなポイントですよ、姫」
「あらそうなの」
「そうなのです。……で、ここでメインイベント!」
 テンション高く鈴仙が叫び、みんなの視線を注目させた。
 取り敢えず、代表して聞いてみよう。
「めいんいべんと?」
「そう、メインイベント。実はね、メディスンにプレゼントがあるの!」
「ぷれぜん、と?」
 ……何だろう、その言葉の響きは何か凄く嫌な感じがした。
 でも、みんな楽しそうに笑っているし、嫌な事じゃないに違いない。
 そう自分に言い聞かせ、何とか顔に笑みを浮かべる。鈴仙はそんな私の言葉に頷くと、背中に隠していたのだろう何かを私の正面に差し出した。
「はい、お誕生日プレゼント!」
 それは、白い箱にピンクのリボンでラッピングされた物だった。
 そしてそれは、プレゼントという物だった。
「――プレゼント」
 プレゼント。
 白い箱に、ピンクのリボン。
 そこには、私が、
『これ、いらない』
「――ッ!」
 その瞬間、言葉では表現出来ない程の恐怖に襲われ、
「い、嫌ぁぁぁッ!!」
 目の前に差し出された箱を、私は思い切り腕で払いのけていた。
 中に入っていたのは硬い物だったのか、畳へと落ちたそれは硬い音を立てて転がった。
 そして次の瞬間、どうして自分がそんな事を行ったのかが全く解らず、私は激しい動揺に包まれた。
「め、メディスン……?」
「え、あ……」
 声に視線を上げると、そこには驚きと不安、そして悲しみの入り混じった表情をした鈴仙が立っていた。
 そしてすぐ背後から、
「一体どうしたの? 何か、イナバが気に障るような事をした?」
「ち、ちが……」
 否定の言葉を必死に紡ぎながら視線を向けると、そこには私の事を心配げに見つめる黒い瞳が――
『もう大丈夫だからね』
 刹那、強烈な既視感と共に、世界がぐらりと歪んだ。
 そして次にやって来たのは――奇妙な安堵感と、過去の記憶。
「あ、あああぁぁぁぁ……」
 あの頃には流す事が出来なかった涙が、瞳から溢れ出してくるのを感じる。

 無意識に輝夜へと抱きつきながら、私は自我が目覚める以前の記憶を思い出していた。 

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